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岐阜地方裁判所 昭和53年(ワ)632号 判決 1981年2月04日

原告 甲野一郎

右法定代理人親権者父 甲野太郎

同母 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 関口宗男

被告 岐阜市

右代表者市長 藤田浩

右訴訟代理人弁護士 土川修三

主文

被告は、原告に対し、金二二六八万七二四円及び内金二〇六八万七二四円に対する昭和五三年二月二三日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金二四七九万二九〇九円及びこれに対する昭和五三年二月二三日から支払済まで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  (本件事故の発生)

原告は、被告の設置する岐阜市立加納小学校(以下加納小という。)六年に在学していた昭和五三年二月二三日、クラブ活動の時間の第六時限が始って約一〇分を経過したころ、漫画クラブのクラブ長として、同クラブの教室で黒板に注意書きを書いていた際、訴外乙山五郎が手製の弓で発射した矢を右眼に受け、右眼角膜穿孔外傷、水晶体損傷の傷害を負い、右眼を失明するに至った。

2  (被告の責任)

右事故の発生については、被告の使用する地方公務員たる加納小校長成瀬文平(以下成瀬校長という。)及び加納小教員で漫画クラブ担当であった丙川十郎(以下丙川教諭という。)に、その職務を行うにつき、以下に述べる過失があった。

(一) クラブ活動に参加する児童は、その年令からみて自己の身体に対する危険を回避防禦する能力が不足し、他面思慮分別に乏しく、自己の行為の責任を弁識するに足る知能を具えていないのみならず、個々の児童ごとにその知力感情の発達程度にかなりの差があるのであるから、丙川教諭としては、クラブ活動の時間開始直後には漫画クラブの教室に在室して注意、指導をなし児童の保護監督にあたるべき義務があったのに、これを怠り、漫画クラブの児童を放置したまま担任のクラスである三年生のクラブ見学に付添っていた。

当時の漫画クラブは、児童数一四名の小人数で構成されていたものであるから、担当教員が教室にいたならば児童が弓矢を放つことはなかったのみならず、事前に弓矢の持込の発見もできたであろうことは経験上明白である。

(二) 弓矢遊びが子供の遊びとして通常よくなされることは社会常識であり、特に教員はこのことを当然理解しているべきである。したがって、成瀬校長及び丙川教諭としては、児童に対し、本件事故に使用された手製の弓矢のごとく身体に危害を及ぼす危険物を教室内に持込まないように指導監督すべき義務があるのにこれを怠り、乙山五郎が教室内に弓矢を持込むことを防止しなかった。

(三) クラブ活動は小学校の正規の活動であるから、学校長たる者は右活動をする児童らに教員を配置して児童の保護監督に万全を期すべきものであるのに、成瀬校長は、本件事故の発生したクラブ活動の時間には漫画クラブ担当の丙川教諭が教室に不在となることを知りながら代りの教員を漫画クラブに配置するのを怠った。

したがって被告は国家賠償法一条により、本件事故により原告の蒙った損害を賠償すべき義務がある。

3  (原告の蒙った損害)

(一) 治療費等

原告は、本件受傷の治療のため、事故発生日の昭和五三年二月二三日から同年四月五日までの四二日間岐阜市民病院に入院し、その後現在まで同病院に通院しているが、その間愛知県一宮市内の佐野眼科に二回、岐阜大学付属病院に五回、名古屋大学付属病院に一回、杉田病院に三回、関東労災病院に一回通院しており、治療、入通院関係の損害は次のとおりである。

(1) 治療費 一六万二四八円

(2) 入院雑費 二万五二〇〇円(一日あたり六〇〇円の四二日分)

(3) 付添費 一二万六〇〇〇円(一日あたり三〇〇〇円の四二日分)

(4) 通院費 四万二〇四〇円

(二) 逸失利益

原告は右眼を失明(後遺障害等級第八級に該当)したので労働能力の四五パーセントを喪失したとみるのが相当である。

そして、原告は大学に進学する予定であるので、大学卒業時である二二才から就労し、六七才までの四五年間就労可能であり、本件症状固定時である昭和五三年度賃金センサスによれば大学卒業者の平均賃金は年収一七三万一九〇〇円である。

よって原告の逸失利益を複式ホフマン計算法により算出すると一四四三万九四二一円となる。(計算式は別紙計算表(1)のとおり。)

(三) 慰謝料

原告は右眼を失明し、今後日常生活にも多大な不自由不便をしのんでいかなければならず、学業習得にも支障をきたすことは明らかであり、長い将来にわたって受ける精神的苦痛は測り知れない。したがってその慰謝料としては八〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用

二〇〇万円

(以上(一)ないし(四)の合計額は二四七九万二九〇九円)

(五) よって原告は被告に対し、

右損害金二四七九万二九〇九円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五三年二月二三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1の事実はすべて認める。

2  請求原因2の事実のうち、成瀬校長及び丙川教諭の地位と被告の関係、クラブ活動が小学校における正規の児童活動の一であり、本件がその活動中に発生した事故であること、本件事故発生の際漫画クラブの担当教員である丙川教諭が三年生のクラブ見学引率のため、漫画クラブの教室を離れていたことは認める。しかしその余の点特に成瀬校長及び丙川教諭の過失は争う。

(一) 丙川教諭が本件事故発生時に、漫画クラブの教室にいなかったのはやむを得ない事情に基づくものであって、この点になんら義務の懈怠はない。すなわち、当時丙川教諭は、三年四部の担任教諭であり兼任として漫画クラブを担当していたもので、当日は次年度からクラブ活動に参加することとなる三年四部の児童に、クラブ活動の現場を示してその全般を説明し、児童のクラブ選択の参考にする目的で、クラブ活動を見学させることとなっていた。そこで丙川教諭は、クラブ活動の時間開始直前に漫画クラブの教室(三年四部の教室でもある)に出向き、黒板に当日の活動内容についての指示や静かにクラブ活動をするようにとの注意を掲示して教室を出、校庭に集合していた三年四部の児童にクラブ活動見学の注意指導を始めて約一〇分が経過したところで本件事故の発生をみたものである。

丙川教諭としては、クラブ活動が後述のとおり自発的自治的活動を主とするものであり、クラブ活動の集団が四、五、六年生によるたて割り集団で自治能力が高いところからクラブ活動を自習とし、より自治能力の低い三年四部の学級集団の指導に当ったことは教育指導上やむを得ない措置であったし、その方法自体も妥当であった。

(二) 訴外乙山五郎が弓矢を校内に持込んで原告の眼を射るということは、成瀬校長及び丙川教諭においては予見不可能な出来事であった。すなわち、本件事故発生の前後ころ加納小学校内において弓矢遊びが児童間に流行しあるいは流行しかけていた事実はなかったのみか、児童の弓矢遊びや、児童による弓矢の校内持込は本件の事例を除けば皆無であったし、また加害児童である乙山五郎は本件事故前に特別異常な行動をとったことはなく、いわゆる問題児ではなかったのである。したがって、成瀬校長及び丙川教諭にとって乙山が弓矢を学校内に持込むことを予見することは不可能であったし、まして、本件事故発生を予見することは全く不可能であった。

(三) 本件事故発生時に担当教員が不在であったことにつき学校長に対し過失を問いえない。すなわち、小学校においては、四年生から希望するいずれかのクラブに入部してクラブ活動を行うことになっており、加納小では、当時漫画クラブ、読書クラブ等合計二一のクラブが設けられて毎週木曜日の第六時限に所定の教室あるいは校庭において、活動を行っていた。ところでこのクラブ活動の目的は、教員が教え児童が教えられるという教科活動とは異なり、同好の児童の集団によって共通の興味関心を追求する活動を自発的、自治的に行うことによって自主性、社会性を養い、個性の伸長を図ることにあり、それ故に、自発的、自治的行動をなしうる年令の四年生以上の児童をクラブ活動に参加させているのである。

したがって、クラブ活動を指導するクラブ担当教員としては児童の自発的、自治的活動に対する助言をなせば足り、活動中終始教授する必要はないから、漫画クラブにつき教員が不在となったからといって、教員の配置につき成瀬校長に過失があったということはできない。

3  請求原因3の損害の主張については以下の限度で認め、その余は争う。

(一) 治療費等

(1) 治療費 一六万二四八円(原告主張額)

(2) 入院雑費 二万一〇〇〇円(一日あたり五〇〇円の四二日分)

(3) 付添費 一〇万八〇〇円(一日あたり二四〇〇円の四二日分)

(4) 通院費 四万二〇四〇円(原告主張額)

(二) 逸失利益

労働能力喪失率を四五パーセントとし、収入を賃金センサスの大学卒によらず学歴計によって算定した一二三六万五〇六五円が相当である。(計算式は別紙計算表(2)のとおり。)

(三) 慰謝料   四〇四万七七〇〇円

(治療期間に対する分六八万七七〇〇円と、後遺症に対する分三三六万円の合計額)

(四) 弁護士費用  六二万九六三一円

(一)ないし(三)の合計額(一六七三万六八五三円)をもとに日弁連報酬算定基準により算出すれば、報酬額は八九万九四七四円となるところ、本件においては被告が原告の負傷の事実を争わないのでその三〇パーセントを減額

(以上(一)ないし(四)の合計額は一七三六万六四八四円)

第三証拠《省略》

理由

(本件事故)

一、請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

(過失)

二、1 公立小学校の校長、教員が小学校における教育活動につき児童を保護監督すべき義務があることは、学校教育の本質及び学校教育法の精神に照らし明らかであるところ、本件漫画クラブの活動が小学校の正規の教育活動であること及び本件当時、成瀬校長が加納小の校長であり丙川教諭が加納小の漫画クラブ担当教諭であったことは当事者間に争いがないから、成瀬校長は加納小の管理権限を与えられていた者として、丙川教諭は漫画クラブの担当教員として、それぞれ、漫画クラブのクラブ活動を実施するに際し、児童の生命身体の安全確保に万全の意を用うべき高度の注意義務を職務上負っていたものというべきである。

被告は、右の点に関し、クラブ活動には児童の自主性を最大限に尊重することが要請される特殊性があると主張するが、児童は未熟な面を多分に持っているのであるから、右のような特殊性が存するからといって、校長あるいは教員の前記注意義務が軽減ないし否定されるものではない。

そこで、成瀬校長、丙川教諭が右注意義務を尽くしていたか否かについて検討する。

2(一) 《証拠省略》によれば次の(1)ないし(4)の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(1)  クラブの数、種類は各小学校が児童の希望や教員の数などを考慮して独自に決定する。加納小においては、昭和五二年度はいわゆる文化系のクラブと運動系のクラブをあわせて一九のクラブがあり、校長、教頭を除く二九名の全教員が、いずれかのクラブの担当となっていたもので、所属児童が多いクラブ、危険性の高いクラブについては二名宛の教員が、漫画クラブを含むその余のクラブについては一名宛の教員がそれぞれ活動を担当していた。

なお、加納小ではクラブ活動は週一回木曜日第六時限に行われており、その場合通常三年生以下は授業がなく、下校していた。

(2)  本件事故当時漫画クラブには六年生、五年生各五名、四年生四名の合計一四名が所属しており、同クラブの指導は昭和五一年度から丙川教諭が担当していた。丙川教諭は、本件事故当時、三年四部のクラス担任でもあり、漫画クラブの活動は三年四部の教室を使って行われていた。

(3)  加納小においては、昭和五三年二月二三日の第六時限がクラブ活動の時間であったが、この時間は、翌年度からクラブ活動に参加する三年生全員(四クラス)が、クラブ選択の参考にするためクラブ活動を見学することとなっていた。このクラブ見学はクラスごとに担任の教員が引率して実施することになっており、このため三年四部のクラス担任であった丙川教諭は第五時限の授業終了後校庭に三年四部の児童約四〇名を集めた後、一人第六時限には漫画クラブの活動に使用される三年四部の教室に戻り、黒板に漫画クラブのクラブ員に対する注意事項などを記載した。この時点では右教室にクラブ員は一人も来室しておらず、丙川教諭は六時限の授業開始の合図と同時くらいに右教室を出て、再び校庭に戻り、三年四部の児童を引率してスポーツクラブ等の見学をさせていたのであるが、その間に本件事故が発生した。

(4)  クラブ活動見学の時間においては、丙川教諭を含め三年の四クラスを担任している教員四名はいずれもクラブ見学の引率に従事していた。このようにクラブ見学引率のためクラブ担当の教員が当該担当のクラブ活動に直接関与できなくなるという事態の生じることは校長等において十分認識していたところであったが、これに対する措置は何ら用意されておらず、クラブ見学の引率にあたる教員はもとより他の教員に対しても別段指示はなされていなかった。

(二) 《証拠省略》によって認められる次の事実すなわち、従前、原告と乙山五郎とがいさかいを起したことはないこと、乙山は粗暴な点はないがやや落ち置きを欠く児童であったこと、丙川教諭在室のもとでの漫画クラブの活動においては本件以前には問題とされるような事態の発生をみたことはないこと以上の事実と、前記争いのない請求原因1の事実及び本件発生時丙川教諭が漫画クラブの教室を離れていた事実を総合すれば乙山において、原告に向けて弓矢を発射するという危険な行動に出たのは担当の教員が不在であったことにより緊張感を欠いたためであって、担当の丙川教諭が教室に在室して直接指導にあたっていれば乙山は右のような行動に出ることはなかったであろうし、よしんば乙山が右行為に及びかけたとしてもこれを早期に発見制止しえたものと認められ、右認定に反する証拠はない。

3 右1及び2に認定したところからすれば、学校の管理運営に直接の責任をもつ校長たる者は、クラブ活動が特別活動でかつ学年を異にする児童が参加することから児童に緊張感を欠き、また四年生という思慮分別の乏しい学年の児童も参加していることからして、担当教員が不在で児童のみによってクラブ活動が行われる場合には、一部の児童において気ままな行動に走り場合によっては負傷事故に結びつくことに思いをいたし、かような事態の発生を防止するに必要な措置を講じるべきであったのにこれを怠り、当日が三年生のクラブ見学の日で漫画クラブについてはクラブ担当の教員が不在となることを知りながら、活動の統合あるいは教員の配置調整をするなど担当教員不在の状態を解消する措置をとらなかったため本件事故に至ったものと認められ、成瀬校長にはこの点に過失がある。

被告は、成瀬校長(及び丙川教諭)はなんら義務懈怠の責を負ういわれがないとして種々主張するが、前示の校長(教員)に課せられている児童の安全保持に向けられた義務の性質、程度に鑑みるとき、校長の予見すべき事故の発生は当事者や態様の特定された具体的なものである要はなく抽象的なもので足りるというべきであるから、本件事故のころ児童の間に弓矢遊びが流行していたかどうかや乙山五郎に弓矢遊びをする気配が事前にうかがわれたかどうかなどは前記の結論を左右しないし、いわんや日頃児童に対し安全教育を施していたからといって免責されるものでもない。

(被告の責任)

三、成瀬校長が被告の使用する地方公務員であることは当事者間に争いがないから、前項に認定の過失とは別個の過失の存否について判断をすすめるまでもなく、被告には、国家賠償法一条に基づき、本件事故により原告が蒙った損害を賠償する義務のあることが明らかである。

(損害)

四、すすんで、原告の損害について判断する。

1  治療費等

(1)  治療費一六万二四八円、通院費四万二〇四〇円については当事者間に争いがない。

(2)  入院雑費、付添費

原告が本件受傷により四二日間入院した事実は当事者間に争いがなく、右入院中治療費以外の費用を要したこと及び付添の必要があったことは被告において明らかに争わない。

そこで、一日につき入院雑費として六〇〇円を、付添費として二五〇〇円をそれぞれ相当額と認め、四二日分を算出すれば、入院雑費が二万五二〇〇円、付添費が一〇万五〇〇〇円となる。

2  逸失利益

イ  労働能力喪失率

原告が本件受傷の後遺障害として右眼失明の障害を残したことは当事者間に争いがなく、右後遺障害により労働能力の低下をきたすべきことは明らかである。

そこで、右労働能力低下の程度を検討すると、本件事故当時原告が小学校六年生であったこと(この点は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、原告は昭和四〇年一〇月一八日生であると認められる。)からいって、原告が今後修得する学業や労働適応力、将来就くであろう職業の種類などが不確定であり労働能力低下の程度の予測が極めて困難であることは否定できないが、原告が男子であること、後遺障害の部位、程度に労働省労働基準局長通牒(昭和三二年七月二日基発第五五一号)の別表「労働能力喪失率表」の上で一眼の失明の場合の労働能力喪失率が四五パーセントとされていることを参酌すれば、原告は前記後遺障害により労働能力の四〇パーセントを喪失したと認めるのを相当とする。

そして、《証拠省略》によれば、原告の前記後遺障害は終生継続するものと認められるから、前記労働能力の低下は原告の稼働可能期間を通じて継続するというべきである。

ロ  将来予想される収入

原告は現在中学生であり、将来の進学、就職については不確定的要素が多々あるので(原告法定代理人尋問の結果中の原告の進学見込に関する供述はにわかに採用できない。)将来予想される年収としては賃金センサス(昭和五三年度)第一巻第一表産業計、企業規模計、男子労働者学歴計、年令計の平均年間給与額三〇一万四五〇〇円とするのが相当である。

ハ  中間利息の控除方式

中間利息を控除して将来の逸失利益の現在価額を算定するにあたり用いるべき計算方式として、より合理性のあるライプニッツ方式を採用する。

ニ  計算

右イないしハの数値、方式にしたがい原告が一二才であった事故時における将来の逸失利益の現価を計算すれば、一六三四万八二三六円となる(計算式は別紙計算表(3)のとおり。)。

3  慰謝料

すでに認定した、本件事故の態様、原告の受傷の部位程度、入院期間、後遺障害の内容及び原告の年令、その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すれば、原告が本件受傷によって蒙った精神的苦痛を慰謝すべき金員の額としては金四〇〇万円が相当であると認める。

4  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起追行を弁護士である原告代理人に委任したことは当事者間に争いがなく、事案の難易、被告の応訴態度、前記1ないし3として認定の損害額が計二〇六八万七二四円であること等の事情に照らすと、弁護士費用については、二〇〇万円をもって本件事故と相当因果関係に立つ損害と認める。

五、以上のとおりとすれば、原告の被告に対する本訴請求は、前記四の1ないし4の認定金額の合計金二二六八万七二四円及びうち弁護士費用二〇〇万円を除く金二〇六八万七二四円に対する本件事故の日である昭和五三年二月二三日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋元隆男 裁判官 池田勝之 大澤廣)

<以下省略>

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